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とうとう実家業の仕事も辞めざるを得なくなった僕だったが、もう次の転職に頭を切り替えて求職活動をしており職種も決めていた。やはり「コールセンターしかない」。以前、長期間続けられたコールセンターはテクニカルサポート。自分には事務系のコールセンターではなくテクニカルサポート系のコールセンターが性に合っているんだ。
自宅から通える範囲で探したところ。家からバスで15~20分ぐらいで行けるコールセンターを見つけた。業種もCATV系の会社で以前のISP業種と似通っていたためちょうどよかった。早速、派遣会社に応募しコーディネーターと面接を経た上で仕事がきまった。
後から分かった事だが、コールセンターのこの職場は典型的なブラック事業所で「常時求人募集を出している職場」だったのだ。まず求人で気を付ける点は
・「常時募集している職場」や「時給が不自然に高い求人」
・「仕事の詳細の内容が書いていない求人」
・「入社後、金額負担をさせる会社(求人票では分からないが)」
・「働きやすい。皆でワイワイ。などあたかも職場環境が良いイメージを与える求人」
・「20代30代が活躍。女性が活躍。など入社前から年齢や性別を明記差別している求人」
そういった企業の求人は詐欺求人や入社後も何らかの理由で働きづらい環境である可能性が高く注意しなければならないのだ。もう何度も転職していく上で何となく「怪しい求人」が分かるようになってくるのだ。その時は僕はまだそれが分からなかった為「自身の経験職種と勤務地」という条件だけで決めたのだ。
結果論からいうと「常時求人募集を出している職場」はそれだけ「辞める人が多い職場」なのだ。求人を出しているという事は簡単に言ってしまえば「入っても辞めてしまう環境」または「人が集まらない環境」なのだ。
そんな職場で新人研修が始まった。同期のオペレーターは全部で6~7人程、年齢は30代前後の男女だ。座学研修が1か月程あり、その後現場に出ながらOJTを1~2週間ほど実施して現場に配属される。
ISPと同様CATV業界もサービスが多く研修ボリュームが多いのだ。そんな新人研修の初日にそれぞれの自己紹介が始まったがそこで発達障害特有の症状が出る。
例のごとく注意欠如・多動症(ADHD)の特徴の一つでしゃべり好きの僕は自分の自己紹介をジョークを織り交ぜ、過去の体験などを交えながら面白可笑しく紹介していた。気持ちよくなって調子にのった僕は何を思ったか「政治の話」を交えながら面白可笑しく自己紹介をしたのだ。同期には面白くてウケたようで笑いと終わった後で拍手が鳴った。
「絶頂」を迎えた僕は満足感でいっぱいだったが、管理者の講師に思わぬ指摘を受けたのだ。「〇〇さんの自己紹介とても面白くてよかったですね。ただ1点よろしくないのは、政治の話ですね。職場には政治の話をしないように注意しましょうね」と言われたのだ。
ここで定型発達の人なら「そうだよな」と反省するのだが、発達障害の僕は「なぜ政治の話がいけないのか?」「自身を知ってもらうために補足で足した情報じゃないか」「第一なぜ日本人はみな政治の話題を避けたがる?」と思ってしまうのだ。海外では学生だって学校で生徒同士政治の話を当たり前のようにする。
日本はなぜ自分たちの国の事(行政)に無関心なのか?第一、「政治の話をしてはいけない」は権力者側が「自分たちの思うように国民を操る」為の政策の一環で昔からそのような偽情報を流布し国民の意識に植え付けたものではないのか?そんな今でいうフェイクになぜ国民は騙されるのか?僕から見るとそんな「国民」がおとなしくて愚かだと思うのだ。
その時にはそんな事を考えていたのだが今考えれば「時と場所」が悪かったのは否めない。第一初対面の人にいきなり政治観を言われても困惑してしまうだろう。(僕は毎朝新聞をよみ政治に興味があるのでザッツオーライだが)ましてや新人研修の自己紹介という「場」もふさわしくなかったのであろう。仲良くなって休憩時間に友達に政治の愚痴をこぼすのとは確かに訳が違う。まあ「そんな所」が発達障害の僕の特徴なのである。話がまた逸れてしまった。そんなで順調に研修も進み座学も終わり、OJTが始まる。
そのOJTでも僕はまた「キレる」事になるのだが...
まずその話の前に、ここのコールセンターが2つの理由で僕に合わなかった事を説明しよう。
まず1点目が「サポート内容」。
技術的な「テクニカルサポート」ではなく、サービスや手続きなどを案内する「カスタマーサポート」であった事。テクニカルサポートは業界が違ってもトラブルの原因や仕組みなどをある程度、技術的な事を理解しておけば流用できたりするのだ。
また前職のテクニカルサポートは事務処理や手続きなどと違い「正解」が1つではない。あらゆる方法が試せたり場合によっては「原因が不明だったが改善した、改善しないので〇〇で対処する」などトークスキル」で切り逃げることもできるのだ。しかし事務系のカスタマーサポートは殆どが「正解(手続き方法など)」が1つに決まっており、回答の迅速さや正確性が問われれる為、心の余裕がなくなりストレスが僕にとっては溜まりやすいのだ。
そして2点目が「他の部署への連携や手配」が必要であった事だ。
お客様の応対にのみ集中したいのにカスタマーサポートでは頻繁に社内の別部署との情報共有や連携、場合によっては訪問手配などしなけければならない。その手続きは僕にとっては非常に煩雑であり、まして他部署起因のクレームががこちらの窓口に迷い込んでくる事など日常茶飯事なのだ。
他人や他部署が原因のクレームは第三者が対応してもろくなことにならないのだ。そんな理由からここでの電話対応に一抹の不安を抱きながらOJTを始めた。
OJTでは実際のお客様応対をインカムをつけながら対応するのだが、隣にはイヤホンをつけた研修担当がフルモニタリング(実際のオペレーターの応対を聞いていて不明点は適宜指示をする)をするのだ。僕の横には女性の研修担当がフリルモニタリングして対応していたが、例のごとくクレーム気味のお客様から入電があった。
要点はサービスや手続きの不備を突いてきて不満を言われるお客様であったが、申告内容から新人の僕でも「お客様の指摘はごもっとも」こちら=企業側に不備がある事は明白な案件だった。ただ僕は淡々と心情に寄り添いながら対応して嵐が収まるのを待っていたが、なかなかお客様も引き下がらない。
本来こういう場合は隣で聞いている「研修担当」が僕にお客様を納得させる指示をするか、僕に代わってお客様対応をして見本を見せる必要があるが、その女性研修担当はあろうことかモニタリングしながらお客様の熱に飲まれ「焦っている」のである。
僕は呆れた・・・ (おいおい。それくらいで狼狽しないでくれよ。こっちはお客様でなく「研修担当の貴方」に呆れているんだよ)そう僕は思いながら、適宜お客様をいさめながら「指示待ち」をするもいっこうに状況が好転しない。
そのうち女性研修担当の指示だし内容もマニュアル一辺倒で「できないものはできないのよ!」と語尾を強め僕にいうのである。(おいおいそれ言っちゃダメだろ。だいたい怒るのは僕じゃなくできない会社に対してだろ)僕も段々イラついてきた。そうこう押し問答しているとお客様も業を煮やし「おい!できないじゃねーだろ!やるのがお前らの仕事だろ!できないならできない正当な理由を言って俺を納得させろよ。もしくは分る奴に代われよ!」(ごもっとも)とさらに熱が上がる。(これは研修生の僕ではどうにもならないな、対応交代しないとおさまらないだろうな)と感じていた。
これを聞いていた女性研修担当は「もう!なんでなの!できないって言ったでしょ!」と感情をあらわになぜか僕に怒り始めた。(おいおいふざけんなよ!あんたの指示だしがダメダメだからだろ!なんで俺が怒られるんだよっ!)。
これで僕はブチ切れた。お客様応対を保留にして女性研修担当にむかい「ここまで対応してあなたの指示で(顧客が)納得しないし、上席への対応交代を求められているんだから代わってください!それがあんたの仕事だろ!新人をいじめるのもいい加減にしろ!」とキレたのだ。
その後、対応は研修担当に交代して終了したが(結局、解決せず預かりになったようだ)、僕は一連の出来事で、この職場の強烈な不満を更なる上司の男性管理者に報告し、早速マンツーマンでの面談してもらうこととなった。
事情を全て話した僕に対し上司の男性管理者は「状況はよくわかりました。きのやんさん、OJTでまだ不安な時期にクレーム対応ありがとう。隣に研修担当がいながらそのような結果となって申し訳ない。対応で困っているのに明確な指示ができず申し訳なかった。以後OJTでは気を付けるように本人(女性研修担当)に言っておきます」と言われたのだ。(ちなみにこの男性管理者は自己紹介の時、僕の政治的発言を指摘した根の優しい管理者だ)
発達障害はやはり「吐き出させる場」と「相談できる場」が必要なのだ。溜まった感情を吐き出した僕は事もあろうかその男性管理者と2人だけの席で泣き出していたのである。
悩みを聴いてくれた感情と(過去の経験でクレーム対応には慣れていたにも関わらず、対応を終了できなかった)悔しさの残った感情が混ざり合ってあふれ出たのだ。いい大人が泣くなんて恥ずかしい話だが発達障害が明らかとなった今では納得できる。
発達障害をお持ちの方なら少なからずいらっしゃると思うが、嫌な事やストレスが溜まっていって吐き出す場がない場合、自身の感情が激しく動き、時に怒り出したり、泣き出したりしたりする事があるらしい。発達障害者にとって職場ではそれは一番避けなければならないことだ。風船が破裂するまえに少しずつ空気を抜いていかないと破裂してしまうのと同じだ。だから「悩みを相談できる場所」が必須なのだ。
そんな事もあり僕はOJTは最後までやり遂げたが、実際の業務開始の着台前に「この職場は続かない」と思い辞める事を決意する。結局、当初の読み通り、求人情報が常に出ている求人はこういった理由で入社しても直ぐに辞める人が多いのである。