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女医さんとの初診から数日後、僕は再び精神科を1人で訪れていた。今日受けるのは、WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)という別名IQテストともいわれる検査で、大人の発達障害の診断の際にもよく用いられる知能検査だ。
「この検査で、僕のIQや知的能力、脳の得意・不得意が分かる…」
それは、自分の「通信簿」を突きつけられるような、恐ろしい感覚だった。でも同時に、「これで長年の謎が解けるかもしれない」という、かすかな期待も抱いていた。
臨床心理士さんとの、長くて短い2時間
通されたのは、小さな個室。担当してくれるのは、穏やかな雰囲気の臨床心理士さんだった。
「リラックスしてくださいね。これは、きのやんさんの能力を測るテストですが、点数が良ければ偉い、というものではありません。あくまで、ご自身の特性を理解するためのものですから」
その言葉に少し安心しながらも、僕の心臓はバクバクと鳴り続けていた。
検査は、様々な種類の問題で構成されていた。
・言葉の意味を答える問題
・歴史や科学に関する一般常識を問う問題
・聞いた数字を、逆から暗唱する問題
・積み木を、見本と同じ形に組み立てる問題
・バラバラになった絵を見て、物語の順番を推理する問題…
得意な問題と、全く歯が立たない問題の差が、自分でも驚くほどハッキリしていた。言葉に関する問題はスラスラ解けるのに、積み木や絵の問題になると、途端に頭が真っ白になる。制限時間が迫る中、焦りで冷や汗が止まらなかった。
いよいよ僕の脳みそが明らかに
後日、再び病院を訪れ、検査結果を聞かされた。臨床心理士さんが、グラフの書かれた一枚の紙を僕に見せる。「きのやんさんの結果ですが、非常に特徴的な形をしています」
僕のWAIS-Ⅳの結果(一部)
言語理解(言葉を操る力): 非常に高い
知覚統合(見た情報を処理する力): おおむね低い
ワーキングメモリー(短期記憶の力): 低い
処理速度(作業の速さ・正確さ): 低い
※数値はあくまで僕個人のものです。
「きのやんさんは、言葉で考えたり、表現したりする力は非常に高いです。でも、目で見た情報を理解したり、複数の情報を同時に処理したり、正確に作業したりするのが、極端に苦手なんですね。この能力の凸凹(でこぼこ)が、発達障害の大きな特徴の一つです」
その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中で、これまでの人生の全ての「なぜ?」が、パチパチと音を立てて繋がっていった。
・口だけは達者だけど、行動が伴わないと言われたのは、言語能力だけが高かったから。
・上司の指示が理解できなかったのは、見た情報や曖昧な指示を処理するのが苦手だったから。
・「さっき言ったでしょ!」と怒られることが多かったのは、短期記憶が弱く、すぐに忘れてしまうから。
・いつもミスが多いと怒られていたのは、処理速度の正確さが低かったから。
僕の「生きづらさ」の正体は、この脳のアンバランスさにあったのだ。
40年間、ずっと探し続けてきた答えが、ようやく見つかった。
僕は、このグラフを、まるで宝物のように見つめていた。