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診断が下り、自分の「生きづらさ」の正体を知った僕。しかし、安堵したのも束の間、目の前には新たな壁が立ちはだかった。
そう、「手続き」という、途方もなく面倒で、ややこしい壁だ。
就労支援サービスを利用するためには、いくつかの公的な証明書が必要になる。医師から説明を受けたものの
僕の頭の中は「?」でいっぱいだった。
僕が挑んだ、3つの「手続きダンジョン」
1. 自立支援医療制度:精神科の医療費の自己負担を軽減してくれる制度。
(主な必要書類:申請書、医師の診断書、健康保険証、マイナンバーがわかるもの等)
2. 障害福祉サービス受給者証:就労移行支援や継続支援を利用するために必要な「利用許可証」。
(主な必要書類:申請書(病院で渡される場合もある)、医師の診断書または障害者手帳、利用したい事業所の情報等)
3. 精神障害者保健福祉手帳:税金の控除や公共料金の割引、障害者雇用の際の証明など、「障害者であることの証明書」。(主な必要書類:申請書、医師の診断書、顔写真、マイナンバーがわかるもの等
※障害者手帳の申請は発達障害の初診の診断から6ヵ月経たないと申請できないので注意
※自立支援医療制度と精神障害者保健福祉手の申請の際に医師の診断書が必要になりますが、同一の診断書で申請が可能なので経済的に考えると一緒に申請することをお勧めします。
「え、何が違うの?」「全部、一気に申請できないの?」
そんな疑問を抱えながら、僕は診断書を握りしめ、おそるおそる市役所の「障害福祉課」へと向かった。
市役所の窓口で、心をすり減らす
市役所の窓口は、僕のような人間にとっては、まさにアウェイの極みだ。たくさんの人が行き交う中、見たこともない初めての証明書の複数の申請。それはなかなかの苦行だった。
案の定、手続きは一筋縄ではいかなかった。
「この書類は、まず病院で先生に書いてもらってきてください」
「受給者証の申請には、まず利用したい事業所を決めて、利用計画案を…」
「手帳の申請には、顔写真が必要になります」
窓口で言われるがままに書類を受け取り、病院と市役所を何度も往復する日々。頭の中は、常にゴチャゴチャ。
ワーキングメモリーが極端に弱い僕は、担当者の説明を一度で理解できず、何度も念押しで同じことを聞き返しては、嫌な顔をされた。
「込み合う役所で待たされるのもストレスだから、頼むから全てネットで申請できるようにしてくれ!」
「ああ、まただ。また、僕は『できない奴』だと思われている…」
診断を受けて少し回復したはずの自己肯定感が、再び削られていくのを感じた。
「証明書」を手にした日
そんな悪戦苦闘の末、全てが揃うまで申請から数ヶ月かかった。(精神障害者保健福祉手帳は初診から6か月以上経たないと申請不可)その間は失業保険をもらいながら、僕は自宅に引きこもり「大人の発達障害」や「就労支援サービス」など発達障害にかかわるすべての情報を仕入れ、新たに歩みだす人生のイメージにふけっていた。
いつしか、そんな僕の元についに3つの「証明書」が届いた。ペラペラの紙や、カバーに入った紙のカード。それは、僕が「障害者」であることを、公的に証明するものだった。
正直、複雑な気持ちだった。嬉しさ半分、そして、もう「普通」の側には戻れないのだという、一抹の寂しさ半分。
でも、それ以上に、強い感情が僕の心を支配していた。
「これで、戦える」
そうだ。これらは、僕が社会と戦うための「武器」であり、自分を守るための「盾」なのだ。
もう、丸腰で戦う必要はない。これからは、使える制度は全て使い、受けられるサポートは全て受けて、自分に合った道を探していけばいい。
僕は、手にしたばかりの障害者手帳を、まるで勇者の証のように、強く握りしめた。