
From Adobe stock
障害者手帳と受給者証。社会と戦うための「武器」を手に入れた僕は、次なるステップに進むことにした。それは、自分に合った「戦場」を見つけることだ。
ネットで調べた情報だけでは、何も分からない。百聞は一見にしかず。僕は、考えられる全ての就労支援サービスに片っ端から電話をかけ、見学と体験の予約を入れた。
「自分に合う場所なんて、本当にあるのだろうか…」
そんな不安と、ほんの少しの期待を胸に、僕の「事業所めぐり」が始まった。
1.就労移行支援事業所:「自分を知る」という、人生の転機
最初に訪れたのは、就労移行支援事業所でした。「社会復帰と就職までの訓練所」と考えると分かりやすいです。主に企業などの一般職を目指す方が、働くための様々なスキルを学び、自己分析を深め、自分に合った仕事を見つける準備をします。
体験利用では、支援員の方との面談の他に、PCで簡単な職業適性検査も受けさせてもらえました。いくつかの質問に答えていくだけで、自分の興味や関心の方向性が分かるというものです。この時の結果が、僕のその後の人生を大きく左右することになります。
就労移行支援のポイント
・雰囲気:「社会復帰のための学校」や「訓練所」。静かだが前向きな熱気がある。
・メリット:自分の特性を深く理解できる。就職に向けた実践的なスキルと手厚いサポートがある。
・デメリット:収入は得られない。原則2年という利用期間の制限がある。
「ここは…僕が40年間、探し求めていた場所かもしれない」
手厚いサポート体制、そして何より「あなたのせいじゃない。どうすればうまくいくか、一緒に考えましょう」という支援員さんの言葉。それは、ボロボロだった僕の心を溶かすには、十分すぎるものでした。
この体験がなければ、僕はきっと、自分の「取扱説明書」を手に入れることすらできずに、また同じ失敗を繰り返していたでしょう。たとえ最終的に違う道を選んだとしても、この「自分を知る」という経験こそが、僕の社会復帰における、最も重要で、最も価値のある第一歩だったと、今なら断言できます。
>【体験談】僕が「就労移行支援の体験」を強く勧める本当の理由はこちら
2.就労継続支援A型事業所:「会社」に近い、緊張感のある場所
次に訪れたのは、雇用契約を結んで働く、A型事業所。PC事務や清掃、検品、フラワーアレンジ、お弁当作成、軽作業など分野が多岐にわたるようですが、僕が見学した場所はデータ入力や事務作業が中心でした。静かなオフィスで、皆が黙々とキーボードを叩く音だけが響き、かつての職場を彷彿とさせる空気に、少しだけ胸がざわついたのを覚えています。
A型事業所のポイント
・雰囲気:一般企業に近い「職場」。良い意味での緊張感がある。
・メリット: 雇用契約があり、安定した給料がもらえる。社会人としてのブランクを埋めやすい。
・デメリット:賃金の割には働くことへの責任やプレッシャーが大きい。勤怠の安定が求められる。
「今の僕に、このプレッシャーに耐えられるだろうか…」僕の心は、期待と不安の間で大きく揺れ動いていました。
>【参考:僕が選んだ道】就労継続支援という働き方について
3.就労継続支援B型事業所:「ありのまま」でいられる、温かい場所
最後に訪れたのが、B型事業所でした。A型事業所同様、作業内容は多岐にわたりますが、僕のイメージとしてはどちらかというとイラストや動画編集などのクリエイティブ系と、軽作業系が多い印象です。僕が訪れた場所も
これまでの2つとは、また全く違う空気が流れていました。
B型事業所のポイント
・雰囲気: アットホームで、自分のペースを尊重してくれる「居場所」。
・メリット: 体調に合わせて柔軟に通える。精神的な負担が少なく、リハビリに専念できる。
・デメリット:工賃は安く、それだけで生活するのは難しい。
「ここかもしれない…」
15回以上も職場を転々とし、どこにも自分の居場所を見つけられなかった僕が、初めてそう直感しました。僕が求めていたのは、高い給料や立派な肩書ではなかった。ただ、「ありのままの自分でいられる場所」だったのかもしれない、と気づいたのです。
全ての道を体験して、分かったこと
移行、A型、B型。全ての場所を自分の目で見て、肌で感じて、僕はようやく一つの結論にたどり着いた。
どのサービスが優れている、という話ではない。
大切なのは、「今の自分の状態に、どの場所が一番合っているか」ということだ。
この「事業所めぐり」という経験がなければ、僕はきっと、自分に合わない場所を選んで、また同じ失敗を繰り返していただろう。自分の足で動き、自分の目で確かめる。それが、自分に合った道を見つけるための、何よりの近道なのだと、僕は確信した。
就労移行支援は、こんな方におすすめ
障害の為、すぐは働けないが、体調のリズムを整えながら、自身の特性を理解したうえで就職に向けた実践的なスキル身に着け、早期の就職につなげたい方
A型事業所は、こんな方におすすめ
一般職のフルタイムなどは厳しいが、自身の障害特性を理解しながら、雇用を結んだ上で安定して働きたい方
B型事業所は、こんな方におすすめ
精神的肉体的に仕事をするのが困難ではあるが、体調に合わせて柔軟に通いたい。また自身の障害特性を理解しながら、リハビリ感覚で何か(作業)をやりながら社会とつながりをもっていたい方