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アスペルガー症候群(現ASD内包)の僕が原因でカサンドラ症候群となってしまった妻が離婚を踏み止まり、それ乗り越えて本来の結婚生活を取り戻すまで

今回は、僕自身の経験を基に、アスペルガー症候群(現自閉スペクトラム症:ASDに内包)を持つパートナーとの関係で生じる「カサンドラ症候群」について深く掘り下げていきたいと思います。

カサンドラ症候群、正式名称「カサンドラ情動剥奪障害」とは、アスペルガー症候群のパートナーと情緒的な相互関係が築けないことで、配偶者やパートナーに生じる身体的・精神的症状を表す言葉です。

引用:『アスペルガーと愛 ASのパートナーと幸せに生きていくためには。』
マクシーン・アストン著 宮尾益知監修 テーラー幸恵訳 東京書籍刊

これは、ギリシャ神話の悲劇の予言者カサンドラに由来します。予言の力を与えられたカサンドラは、アポロンの愛が冷める未来を予見し拒絶。激怒したアポロンは、カサンドラの予言を誰も信じない呪いをかけ、彼女は「トロイの木馬」を予言しても誰にも信じてもらえず、悲劇的な最期を迎えます。カサンドラ症候群のもう一つの重要なポイントは、この「誰にも理解してもらえない苦悩」に陥る点にあります。

アポロンイメージ

アポロンイメージ From Adobe stock

妻がカサンドラ症候群に陥った経緯

僕たち夫婦は7年間の交際を経て結婚しました。妻は、結婚前は僕に発達障害(アスペルガー症候群)の特性があるとは全く気づかなかったと言います。僕の「まっすぐで、正直者で、誠実さ」に惹かれて結婚に至ったと。

しかし、結婚後、良好な時期と悪い時期を繰り返す中で、関係が著しく悪化した時は必ず僕のアスペルガー的特性が原因でこじれ、それが繰り返されることで妻のストレスが蓄積され、最終的にパニック障害に陥ってしまったのです。結婚後約10年間、僕のアスペルガー気質が原因で、妻の精神は火山の噴火のように爆発してしまいました。今思うと本当に申し訳ないことをしたと痛感しています。

妻が当時抱いていた感情は、コミュニケーション時の約8割が以下のような状態だったと言います。

  • 気持ちが伝わらない
  • 話を聞いてくれない
  • 言っても誤解されて否定されてしまう
  • 話しかけると嫌がる
  • 反撃される
  • 話の意味が通じない
  • コミュニケーションができない

当時、僕自身も発達障害の診断を受けておらず、この「ズレ」の原因が分かりませんでした。妻にとっては、まるで「大きい子供か宇宙人と会話しているよう」で、「分かってもらえない」「察してもらえない」「共感されない」「理解できない回答が返ってくる」という恐怖と常に戦っていたのです。

カサンドライメージ

カサンドライメージ From Adobe stock

離婚を踏みとどまれた理由:すれ違う認識と信じ合う心

お互いが発達障害を認識していなかったにも関わらず、なぜ僕たち夫婦は離婚に至らず、今では円満な夫婦生活を送れているのでしょうか。

【アスペルガーである僕の当時の認識】 夫婦喧嘩の後には必ず「何が悪かったか」を話し合い、感情のすれ違いだけで終わらせず原因を話し合った。そして僕から必ず謝罪を入れるようにした。

【カサンドラである妻の当時の認識】

  • アスペルガー症候群(当時はまだ認識なし)である夫が、純粋でまっすぐに自分を求め、愛してくれたことをどこかで信じていた。
  • 夫とうまくコミュニケーションが取れないのは自分のせいだと思っていた。
  • 僕が「離婚」を切り出された際に、突然涙を浮かべ苦しんでいたのを見て、「夫も苦しいんだ」と感じることができた。

このように、当時の僕たちの認識には大きなズレがありました。僕が「話し合いと謝罪」を重視していたのに対し、妻は僕の「まっすぐな愛情」を信じてくれていたのです。最終的に妻は離婚を思いとどまり、今では僕の障害を理解してくれています。

なぜ多くのカサンドラが苦悩し、離婚に至ってしまうのか。それは、男女(夫婦)の脳機能が異なることが全ての原因であり、特に女性が求める「共感」と、多くのアスペルガー夫が持つ「他者の気持ちが分からない」「システマチックに物事を捉える」「自分中心でしか考えられない」といった特性が衝突するためです。

カサンドラとアスペルガーが共に歩むために大切なこと

異なる脳機能を持つ夫婦が、お互いに上手くやっていくためには何が必要でしょうか。僕は以下の2点を挙げたいと思います。

  • カサンドラのパートナーがアスペルガーの脳機能特性を理解し、その傾向を把握しながらコミュニケーションを図っていく(他者理解)
  • アスペルガーのパートナーが、自分が発達障害であること(傾向があること)を受け入れ、早期診断に動き、夫婦のコミュニケーションの問題を改善できるよう努力していく(自己理解と自己対処)

これは、僕のブログのテーマでもある「自己理解」と「他者理解」に行き着きます。

カサンドラは、アスペルガーのパートナーの異質な言動が「脳機能の偏りからくるもの」だと理解し、言葉通りに受け取るのではなく、その背後にある精一杯の愛情表現を読み取る努力が必要です。例えば、解決策を提示されるだけの会話でも、それはパートナーなりの優しさだと理解する。

一方、アスペルガーのパートナーは、自分の脳機能の偏りからくる特性を自覚し、医師の診断を受け入れることが大切です。そして、「その発言をすることで相手がどう感じるか」を客観的に見つめ、改善しようと努力する姿勢が不可欠です。本人が障害の認識がなく、改善しようとしない場合、カサンドラ症候群を乗り越えることは極めて困難になるでしょう。

お互いに、相手の気持ち(脳機能の特性や共感)を踏まえたコミュニケーションを積み重ねていくことで、僕たち夫婦のように良好な関係を築くことができるはずです。

僕が発達障害と診断された時、妻は「自分を苦しめていたカサンドラ症候群の苦悩の原因がすべて解けた」と語り、夫婦どちらも悪くなかったんだと安心したと言っています。

カサンドラとそのパートナーであるアスペルガーたちが、情緒的交流を交えながら本来の結婚生活を取り戻すためには、カサンドラ側の努力だけでは足りません。パートナーであるアスペルガー本人たちがその障害に気づき、お互いに「他者理解」と「自己理解」をしていくことから全てが始まるのです。

そして、互いに常に相手を思いやる気持ちを忘れず、「あなたがいてくれるから僕は幸せである」という愛情表現を常にパートナーに示しながら、実りある結婚生活を過ごしてほしいと願うばかりです。

「それ」を乗り越えた夫婦には、アスペルガーたちのまっすぐで誠実な心を、カサンドラたちの愛情深く相手思いの心が深く結びつき、二人の間にかけがえのない「時」が流れているはずです。

カサンドラ症候群に悩むすべての人に、ぜひ下記の書籍を読んでいただきたいと思います。

■書籍:『夫がアスペルガーと思ったとき妻が読む本 増補改訂版』 (副題)カサンドラの女性が”離婚”を踏み止まるために必要な事

一組でも多くのアスペルガーとパートナーのカサンドラたちが、二人で一緒に「カサンドラ症候群」を乗り越え、何物にも代えがたい素晴らしい夫婦生活を送れるよう、僕は心から願っています。

 

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