受診当日は病院の指示の通り母を連れて嫁と3人で事前に相談した精神病院に向かった。
母親は40過ぎにもなった息子が発達障害の疑いがあることで精神病院に受診する事に内心戸惑いを持っているようにも見えた。当然そうだろう自分が親の立場に立ってみたらわかるが、自分の息子が発達障害だとしたら負い目を感じてしまうのは自然の事と思う。
また嫁の以前発症した「パニック症候群」はおそらくカサンドラ症候群に起因するものと推測された為、逆説的に考えて根本要因は「私の発達障害」であると私は事前に想像していた。
病院受付で事前に電話予約した旨つたえ3人は診察待合場所で雑談しながら呼ばれるのを待っていた。
私の家は実家から歩いて3分位の近場にあり、よく両親に食事に呼ばれ嫁と私の4人で食事を囲む機会も多く嫁と私の両親の仲は良好であった。そんな状況の為、私の発達障害の疑いがある事について3人は待合所で冗談を交えながら雑談をしていた。
雑談も盛り上がりを見せていたとき、私たちはナースに呼ばれ私たち3人は診察室に入る。
医師「初めましてきのやんさん。事情は看護婦から伺っています。今一度、ご本人の状況や思いをお聞かせ願えますか?」
私たち3人の前には私と同じ年齢位のテキパキと話す女医(発達障害専門医)が座っていた。明瞭でかつ少しお硬い印象はあるもののハッキリとした物言いで信頼できそうな医者だった。女医に前回ナースに話した内容(「経歴」要参照。また嫁のカサンドラ症候群の疑いなど)をかいつまんで話し、いままで40年間気づかなかったがこの「生きづらさ」が発達障害が原因ではないか?と思い受診した旨をありのまま伝えた。
(のちの受診の際に女医に直接聞いた話だが、女医はこの時点で既に私の言動などから注意欠如・多動症(ADHD)は確実であると確信していたようだ)
医師「・・・そうですか。ご本人も苦労されたんですね。ではいくつか簡単な質問をさせていただき診断しますね」
質問
・子供の頃、落ち着きがないと良く言われましたか?→はい
・同様に子供の頃、先生の話を聞かず叱られたりしましたか?また良く考えてから行動するように言われましたか?→はい
・長時間座っていたりできなかったり、その際に身体を小刻みに動かしたり姿勢をよく変えたりしますか?→はい
・人の話を最後まで聞く前に自分が発言したりしますか?→はい
・自分が思った事をその場の状況を考慮せず、すぐ発言しますか?→はい
・人とコミュニケーションをうまく取れないですか?(自分が一方的に話すのではなく会話のキャッチボールが成立するかという意味合い)→はい。自分はコミュニケーションが取れていると思っているのですが、おそらく相手が望んだようにキャッチボールは取れていない事が多いと思います。
・音や匂いや光に過剰に反応したりしますか?→はい。特に音に敏感です。
・自分の思い通りにならないとイラっとし易かったりキレたりパニックになりやすいですか?→はい
・家族と良く喧嘩をしますか?→はい。特に父親と感情むき出しの口論になりやすいです。いまは嫁と2人暮らしなのでそういった機会は少ないですが・・・
・熱中すると時間を忘れてしまうことがよくありますか?→はい
・グループ活動が苦手ですか?→いいえ。
・単純作業や繰り返し作業が苦手ですか?→はい
・人がいま何を思っているかを想像する事が苦手ですか?→はい。想像はしているつもりですが、よく相手の気持ちが理解できないといわれたりします。
・物忘れやミスが多いですか?→はい。物忘れはそうでもないですがミスは結構多いほうです。
その他、何点か合わせて質問を受けた後・・・
医師「分かりました。有難うございます。きのやんさんは注意欠如・多動症(ADHD)ですね。いままでの状況や今回の問診でハッキリしました。」
3人はあまりにもあっけない診断に一瞬戸惑った様子だった。えっ!これだけの問診で分かるものなのか?しかし詳細な話は前回ナースにしていた為、医師のなかでは最終確認であったのだろう。
私の予想は確信に変った。「やっぱり自分は発達障害だったんだ!そうか!いままでの苦悩はこの発達障害が原因だったのか・・・」まさに目の前の曇りが一斉に晴れ、明るい陽射しが私の心を照らすように心がとても軽くなったのだ。
私「やっぱりそうでしたか・・・アスペルガー症候群はどうですか?」
医師「はい。広汎性発達障害(アスペルガー症候群。いまは自閉スペクトラム症=自閉スペクトラム症(ASD)に内包)でもあると思われます。詳しくは後程、説明します。あと奥様の状況もご想像の通りカサンドラ症候群であると思われます。いまはお二人の仲はいかがですか?」
私「はい。いまは夫婦仲はとてもよいです。電話で以前お伝えしたように結婚当時はケンカが原因で離婚危機などもありましたが、結婚10年を超えた今は落ち着いており今回の発達障害が疑われた事によりお互いある程度自制できるようになっています。」
医師「そうですか。それは良かったです。奥様も苦労されたと思います。でもその原因が分かり良かったですね。」
私「そうですね。来院前にいろいろ調べてた所、大人の発達障害が原因でカサンドラ症候群になる方もおおいらしく、原因が障害と分からず離婚になってしまう方もいらっしゃるみたいで、やはり診断してもらい原因特定ができればお互い対処の仕方はあるかなと思っております。」
医師「そうですね。お互い思いやりが大切ですよね。でもご自身達もよく理解されていらっしゃるようなので、いまはあまりアドバイスする必要はないと思いますがもし今後、夫婦関係が上手くいかなかったり、奥様もお辛かったら遠慮なく当院に来てくださいね。あときのやんさんの仕事についてはご自身がお察しの通り、発達障害が原因での転職過多かと思われます。いまは仕事はさているのでしょうか?」
私「いまは仕事はしてません。前職を数か月前に辞めてからこの原因(転職過多)が、もしかしたら自分自身の中の何か(発達障害)が問題かもしれないと感じていたため、原因を突き止めないまままた転職してもまた同じく辞めてしまうことになるので、まずはしっかり診断して今後をゆっくり決めていきたいと思っています。また自分ももう40過ぎでスキルもないので中々仕事を見つけるのが厳しい状況ではあります・・・そしていまはハローワークに通っていますが、今後は障害者雇用や就労移行支援事業所などに通うかバイトをするかなど検討している状況です。」
医師「すごくいいことだと思います。ただ雇用や就労支援は私の専門でないので詳しくアドバイスはできませんがアルバイトなどからやり直すのもいいと思います。一番良くないのが二次障害などでうつ病を発症し、ひきこもりになる事は避けたいです。これからご自身の身体と相談しながら、すこしづつでいいので、バイトでもいいですし障害者雇用または就労支援事業所など検討してみてください。やはり家にずっといるよりは何か活動をしたほうがよいと思います。あと今回は問診だけでしたがアスペルガー症候群も含め、もう少し詳しい検査(WAIS知能検査=有料)で診断が確定できますが、後日そちら希望なさいますか?」
私「はい。ぜひお願いします。」
医師「分かりましたでは後日、WAIS(ウェイス)ウェクスラー知能検査をやりましょう。あと他にご質問がなければこの後、処方箋をお出ししたあと臨床心理士がお母さまに子供の頃の詳細をお伺いしますので待合所でお待ちください」
この後、私は病院の会計を待っている間、母親は臨床心理士と15分ぐらい問診を受けていた様子だった。母親は私の小さな頃、主に3歳までの生育状況を臨床心理士にいろいろ聞かれたといっていた。
処方箋は注意欠如・多動症(ADHD)の薬アトモキセチンというものと、てんかんなどの患者向けのバルプロ酸ナトリウム徐放剤という2点の薬を処方された。
帰宅の際には3人とも「やっぱりそうだったんだね~」などと話しながら、家族も私の特徴が発達障害であった事がわかり内心ほっとしているようだった。
ただ腹を痛めて私を生み、難病を経験した我が子が発達障害と診断された時の母親の本当の内心を察する事がこの時の私にはまだできなかった・・・
併せてこの後行うWAIS知能検査のあと、医師から診断書を書いてもらい正式な障害名が分かった。
私の場合は広汎性発達障害(現在は自閉スペクトラム症(ASD)=自閉症スペクトラム障害、又は自閉スペクトラム症と、アスペルガー症候群(ASDに内包))+ 注意欠如・多動症(ADHD) と記載された。
後に精神障害者保健福祉手帳を申請する為に書いてもらった実際の医師の診断書はこれだ↓
(※主治医の字が汚くてところどころ読めない・・・笑)