未就労だが最近は「大人の発達障害」関連の書物を読み漁り、活用する場もない知識を蓄えている私だが、今回は少し視点を変え、「定型発達者側からみた発達障害」や「企業側からみた発達障害者との就労について」お話をしてみたいと思う。
障害者の雇用義務化に伴い企業サイドではあらゆる障害者の雇用が求められているが、ここで我々、精神障害者にとっては悲しい現実があるので記したいと思う。
~中略~ 障害者雇用を考えている企業の多くは身体障害者を第一のターゲットとして考えるので、身体障害者はひくてあまたです。どの企業でも良い人材に出会うと、なんとか採用に漕ぎつけようとして、条件面での駆け引きになる事もあります。
成功する精神障害者雇用 株式会社スタートライン 刎田文記 著、江森智之 著
身体障害者で十分な職歴があったり、職業訓練を受講していたりすると、好条件の求人を選んで応募し相応の賃金で就職を果たすことも少なくありません。
平成29年発行 第一法規株株式会社
本書で理由として、企業サイドからみて身体障害者に比べ精神障害者については理解が薄く「どのように接してよいかわからない」、障害者本人としては自身の障害特性を企業側に明確に意思表示できる人材は少なく、そのことにより企業側と障害者側でのすれ違いが多く生じ、障害者側がストレスを抱え退職に至ってしまうパターンが多くあるという。平成29年で5年前の発行書なので現状としては発達障害についての認知も広がり多少改善されている可能性はある。しかし身体障害者や知的障害者と違って精神障害者は障害特性が表面化されにくく見えざる障害と言われている為、企業側サイドとしては発達障害をはじめとした精神障害者の従業員については「扱いづらい人材」としてとらえられているのも事実であろう。
あってはならない事だが、障害者雇用については企業は「精神障害者」より「身体障害者」の採用を優先させている事が容易に想像できる。しかし身体、知的障害者自体の数は障害者全体の中では、あまり増加しておらず精神障害者が増加している現代では歪んだ障害者雇用市場となっている事は否めないだろう。
ここでもう1つ企業サイド向けの書籍の中から解決のヒントを考えてみたいと思う。まずは発達障害の特性の一つである「認知機能の偏り」である。
<認知機能のかたより>
発達障害のある方と働くための教科書 石井京子 (著), 池嶋貫二 (著), 林哲也 (著), 大滝岳光 (著), 馬場実智代 (著) 日本法令
1 感情的決めつけ・・・根拠もないのに自分の感情に基づいてネガティブな結論を引き出しやすい。例:取引先から1日連絡がこない→「嫌われた」と思い込む
2 選択的注目(こころの色眼鏡)・・・良いこともたくさん怒っているのに、些細なネガティブな事に注意が向く 例:ほとんどの科目は成果が上がっているのに下がった科目のことだけ悔やんでいる。
3 過度の一般化・・・わずかな出来事から広範囲の事を結論づけてしまう。
例:1つうまくいかないと「自分は何一つ仕事ができない」と考える。
4 拡大解釈と過少評価・・・・自分がしてしまった失敗など都合の悪い事は大きく、反対に良くできている事は小さく考える。 例:ミスした時は「会社に迷惑をかけた」と嘆き、良い結果がでると「自分は大したことをしていない」と謙遜する
5 自己非難(個人化)・・・本来自分に関係ない出来事まで自分のせいにして考えたり、原因を必要以上に自分に関連付けて自分を責める 例:友達が交通事故に遭ってしまった時に、私があそこで声をかけていればと自分を責める
6 0か100 の思考(白黒思考・完璧主義)・・・白黒つけないと気が済まない。非効率なまで完璧を求める。例:取引は成功したのに、期待の値段ではなかった、と自分を責める。
7 自分で実現してしまう予言・・・否定的な予測をして行動を制限し、その結果失敗する。そして否定的な予測をますます信じ込むという悪循環 例:「だれも声をかけてくれないだろう」と引っ込み思案になってますます声をかけてもらえなくなる。
本書では認知機能のかたよりは「五感で受け止めた情報を脳内で今までの経験(記憶・学習・思考)とすり合わせ自分なりに理解していく過程」とある。その認知機能のかたよりは人生の経験が大きく影響することから、その特性に対して独特な物事のとらえ方をする発達障害者は定型発達者からみると認知やとらえ方がゆがんで見えるらしい。その為、認知のかたよりがある発達障害者が円滑コミュニケーションをとる事は非常に難しく、膨大なエネルギーを必要とするらしい。
発達障害者に円滑なコミュニケーションを期待する事より、周りの定型発達者がコミュニケーションを少しでも上手く取れるよう環境調整などの工夫が必要であると説いている。
また社会性の問題については発達障害者は自らが「他人と違う存在である」と考える事できない傾向があり、他人の気持ちを汲むことが苦手である。その中にあって企業ではあらゆる人が働いており、他人と他人との間の関係や問題も当然ある。そういった社内のあらゆる人間関係を想像し対処する事は、発達障害者には極めて困難な為、「円滑な人間関係(社会性)」それを発達障害者に無理強いしたり求めてはならず、周りがそれをくみ取り対応する必要があるという。
よくネットなどで「発達障害者」に対して、定型発達者の立場から「教えても分かってもらえない」「ミスを指摘しても直らない」「自分勝手」「すぐキレる」「扱いが分からない」「指導役の方が心身が疲弊する」「怠けている」「分かるように何度も指導しなければならない」など書き込みされている事を見かけるが、これは全て上記の「認知のかたより」から生ずる特性であり、その特性を企業サイドが「分かっていない」「理解できていない」「理解できていても一部の上司」や「そもそも全社で従業員に精神障害者の教育すらされてない」「精神障害者に対し理解のない従業員が多い」という事なのである。
そして発達障害者への対処に悩み指導役の上司が共倒れするという不幸な状況に陥る事も多いのが事実らしい。
これは例えれば手足の機能障害を持っている身体障害者にたいして「なんで腕が動かせないのか?」「なんで足が動かせないのか?」「自分勝手」「怠けている」「動かせるように指導しなければならない」と言っている事と同じなのである。これは言い換えると障害者差別であり、障害者への虐待ともなりうるのである。彼ら彼女ら(定型発達者)は我々発達障害者(精神障害者)を健常者(定型発達者)と勘違いしているのである。
以上の企業側の歪んだ倫理や従業員の理解が不十分な背景から「精神障害者」への偏見が生まれ、障害者雇用において理解されにくく、比較的理解されやすい身体障害者の雇用を好む傾向にあるのがうなずけるのである。
ではどうすれば解決の糸口が見つけられるか?
最後に障害者の雇用においてあらゆる本に書かれている、重要なことを述べたいと思う
発達障害者の人ぞれぞれが抱える問題は多様にあり1つではないという事。同じ種類の発達障害者でも特性や困りごとは千差万別であること。ましてや複合発症している事も多々ある。それを踏まえ、企業としては発達障害者へ定型発達者の一方的な考えを押し付け、対処方法を考えるのではなく、発達障害者個人ひとりひとりが持っている悩みや置かれている状況にひとつづつ丁寧に耳を傾け、要望を聴き可能な限りその人にあった対応や環境の用意をする必要がある(全て当人の希望通り聞き入れろという訳ではなく、企業が置かれた状況を踏まえ現在のリソースで出来る限りの対応を行えばよい。合理的配慮)。
また発達障害者への対処については属人化させず、チームでフォローする事が重要。そしてチームでも対処できない時は発達障害を専門に扱う外部機関や、医師や、臨床心理士などや産業医、医療機関との連携をしながら対処していく必要がある。
【雇用者側】当事者が教える、発達障害者を雇用する企業が気を付ける5つのポイント
これは障害者雇用に限らず一般の採用にて障害をもつ従業員に対してもも言えることである。
私たち精神障害者は「定型発達者の理解の元」「一人一人に対して悩みをしっかり聞いてくれる」「可能な限りの配慮をしてもらえる」だけで、就業が格段としやすくなるのです。
PS:上記内容を下記の書籍で医師の観点から述べた、激しく同意する文面があったので紹介します。
~中略~
そのような状況で最も重要な事は、発達障害のひとそれぞれが抱える問題に対して、具体的かつ適切な対処方法を一緒に考え、対処し、一つづつ解決していくことです。
発達障害に関する書籍は沢山ありますし、インターネット上にも沢山のサイトがあり、今や情報はあふれかえっていますが、これらの情報に振り回される事なく、その人にとって最も役立つ確実な情報をつかいながら、発達障害ひとりひとりに合った方法を職場が一体となって考え実行していくことが大切です。発達障害者に役立つことは、必ずや定型発達の人も含め、すべての人にとっても役立ちます。そのことを忘れずに、全ての人が仕事のストレスに負けず、生き生きと働くことができる職場を作っていってほしいと思います。~中略~
ではどのような上司の下でなら生き生きと働くことができるでしょうか。
自分を認めてくれ、自分に合う仕事を与えてくれるということが大前提ですが、一言で言うと「多様な価値観を受け入れる柔軟性がある上司」という事になります。
さらに常に落ち着いている人格者で、細かい事にこだわらない人であれば発達障害のある人にとって最高の上司です。そのような上司に認めてもらい、成果について褒めてもらえると、得意な能力を最大限に発揮することが出来るでしょう。