・大人の発達障害について
・大人の発達障害の主な症状
・大人の発達障害の主な特徴
・大人の発達障害の原因や要因
・大人の発達障害の治療
・日本における発達障害の現状と課題
大人の発達障害について
発達障害(正式には神経発達障害)とは脳機能の先天性の偏りや不具合(障害)によるもので、定型発達者(発達障害でない人)に比べ、障害を起因とした対人関係、円滑なコミュニケーションの困難に加え、自分の関心ややり方へのこだわり、常同行動、不注意、多動性、衝動性や感覚過敏や物事の見え方やとらえ方、感じ方が定型発達者と異なる特性がある。その他、読む、書く、計算する、推論する、などの限定的な学習機能障害などもある。しかし同じ神経発達障害群の知的障害とは異なる。また発達障害は大人になって発症するものではなく、先天性のもので出生時から一生引き継がれるものである。
大人の発達障害の主な症状
主な症状としては対人コミュニケーションや意思疎通、人間関係構築につまづき易く、不注意や多動、衝動などが原因で周囲とトラブルが生じやすく社会生活上困難を伴いやすい。大人の発達障害の種類としては自閉スペクトラム症または自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)が代表的。その他、特定の学習機能に困難が生ずる学習障害(LD)、その他の神経発達障害群の一部疾患などである。
※発達障害についてはDSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では疾患の概念、定義、名称は都度改定(変化)している為、今後、変更の可能性あり。
一般的な知的障害者とは異なり、知能は定型発達者同様またはそれより高い人もいる。
脳機能の発達にムラがあり、発達箇所と未発達箇所の差が定型発達者よりも大きく、出来る事とできない事の差が激しいのが特徴の一つである。
また大人の発達障害では定型発達者と変わらない(またはそれを上回る)IQを持つ人も中にはおり障害度合いによりけりだが、各脳機能の差が大きいほど発達障害と診断されやすい。また言葉の遅れがない事がほとんどで一見すると定型発達者と見まがう人が多く、健常者扱いをされやすい。
社会生活上、障害に起因した言動や行動からトラブルを起こしやすく、コミュニケーションに支障をきたしたり周囲から叱責や指摘が多くなる。しかし先述したように定型発達者と見まがう為、周りから理解されずに疎外感をかかえ孤独になりやすい。そしてそれが原因で症状を悪化させたり二次障害(うつ病や躁うつ病、その他の精神疾患)を合併する人も多く、当人は苦しむことになる。実際、社会生活の上での生きづらさの多くは幼少期や青年期の学業生活上では顕著化しにくく、成人となり実際、大人の社会にでてから定型発達者の構築した均一化された社会の中で顕著化しやすくなる。特に日本特有の「空気を読む」「暗黙の了解」「異端者ははじかれる」や当人をとりまく「会社の複雑な人間関係」「周囲の発達障害の理解の欠如」などの要因でもがき苦しみ、様々な挫折を繰り返し社会から脱落する者が多い。
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大人の発達障害の主な特徴
各障害の一般的特徴をまとめると下記の通りである。(但し当てはまらないものがあったり、真逆の特性がある人もいる)
■注意欠如・多動症(ADHD)
不注意
・学業・仕事中に不注意な間違いが多い。
・課題や遊びの活動中に、注意を持続することが出来ない
・直接話しかけると聞いていないように見える。
・指示に従えず、業務をやり遂げることが出来ない
・課題や活動を順序立てることがむずかしい
・精神的努力の持続を要する課題を避ける、いやいや行う
・なくし物が多い
・他の刺激によって気が散りやすい
・日々の活動の中で忘れっぽい
・金銭管理ができない
多動・衝動性
・突発的に話し相手の傷つくことを言ってしまう
・内緒の話を、次の瞬間、他の人にしてしまう
・思いついたことを、すぐに言動に移す
・頭の中で思考がすごい勢いでまわっている
・手足をそわそわ動かしたり、いすの上でもじもじしたり落ち着きがない
・しゃべりすぎる
・自分のことばかりしゃべる
・質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう
・順番を待てない
・些細なことでイライラしてしまう
・衝動買いをしてしまう
・キレやすい
■自閉スペクトラム症(ASD) (※注意欠如・多動症(ADHD)と被る要素もあり)
・自己中心的な言動が多い
・人の気持ちを理解するのが苦手
・相手と適度な距離をはかれない
・空気が読めない
・一方的に指摘されると、反射的に反抗する
・思ったことをそのまま言ってしまう
・自分の興味のあることを一方的に話してしまう
・曖昧なニュアンスが理解できない
・表情や場の雰囲気を読むのが苦手
・想像力が弱い
・多くの人が「常識」と思っているようなルールがうまくつかめない
・客観的な視点で自分や周囲をとらえるのが苦手
・柔軟に視点を変えるのが難しい
・決まったやり方や習慣に強くこだわる
・こだわりが強く、ルーティンを好み、イレギュラーに混乱する
・関心や興味が極度に偏っている
・興味があるものには集中しすぎてしまい、興味がないことは途端にスイッチがオフになる。
・思考が極端
・同じ動作に没頭する
・音や臭い、皮膚感覚、痛みなど、様々な感覚が過敏または鈍感
・不器用、運動神経が鈍い
■学習障害(LD)
聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する事への困難が伴う
大人の発達障害の原因や要因
また発達障害は病気ではなく「脳機能の偏り(脳機能障害)」によるもので原因はいくつか考えられるが、そのひとつが遺伝的要因。そして内側前頭前野など脳内器官の機能不全や体積低下、出産前後の周産期異常や出生後の感染症による脳機能の損傷、脳内伝達物質の不足、脳内免疫細胞やマクロファージの活性化や炎症。そしてそれら様々な複合的要因で起こるのでははないかとも考えられている。(※原因の断定は現代医学でもできていないが、遺伝要因と環境要因との両輪で議論されている)また心理社会的要因(親のネグレスト、虐待、睡眠の乱れ、ゲームやネット過多、食習慣など)や職場でのトラブルによって症状が悪化したり、二次障害や合併症を現れやすい傾向にある。
大人の発達障害の治療
病気とは違い、脳の先天的な偏り(障害)が因子となっている為、完治は不可能で、障害の現れ方や度合い、生きづらさも人により様々である。受診医療機関は大人の発達障害を専門として扱う精神科の医療機関、診療内科、診療クリニックなどである。
診断は主に医師からの出生からの生育状況問診を柱とし、当人へのヒアリング、WAIS(ウェクスラー)知能検査などを行い総合的に診断していく。治療としては薬物療法(投薬)がメインとなるが脳機能障害である為、治すのではなく症状を抑えていく緩和療法が主体となる。また各支援機関などでも実施している対症療法(主にコミュニケーショントレーニングなど)など社会性を向上させ、障害特有のトラブルや症状を緩和させていく方法などがある。しかし当人の努力だけでは改善に努める事が極めて困難であり、併せて周囲の人々の配慮を必要とする。
発症割合は障害のタイプにより大きく異なるが自閉スペクトラム症(ASD)は1%前後、注意欠如・多動症(ADHD)は5~10%前後、発達障害というくくりで見ると人口全体の1%~多く見積もっても10%程の発症率ではないかといわれている。(海外のデータも含む)
男女比率は女性よりも男性の方が多いといわれている。(ただし女性の発達障害は生活上周りからは表面化しにくいという特性もあり、受診者も男性に比べ少ないが、潜在数では男性とほぼ同数という説もある)
日本における発達障害の現状と課題
また欧米に比べ日本では大人の発達障害の認知はここ最近されてきたばかりで、法整備(2004発達障害支援法策定、翌年施工、2013年障害者差別解消法成立)されつつあるが、社会的認知や認識が遅れている状況であり、欧米の早期発見や重層化した包括システムに比べ、日本では支援機関はできつつあるもあくまで当人の主体的な行動(病院受診など)にゆだねられており欧米に比べまだまだか細い支援となっている。また発達障害の症状が他の精神疾患と重なる事や概念の複雑性、流動性から診断できる専門医も少なく限られ、精神科の専門医でも誤診があるのが現状である。
医療機関の専門医を増やすのは当然の事、国や自治体を含めたさらなる法整備や包括支援、そして社会全般や民間企業や常駐する産業医への教育支援、そして何より周りで働いている従業員が「異端者」だと腫れ物に触るのではなく「一つの個性」としてとらえ、同時に発達障害について理解を深め、学ぶと共に障害者だけではなく定型発達者も一緒になって周りがサポートしていく体制作りが早期に望まれる。
発達障害は成人になり「生きづらさ」や「困難」が現れやすい特徴がある。その為にも子供のころからの早期診断、治療、支援がその後の人生を決定づけていくと言っても過言ではない。
発達障害は家族、本人による医療機関での診断、投薬だけで上記症状が緩和できるものではなく、当事者をとりまく周りの人たちの支援が必要である。そのため発達障害児や発達障害者と接する、親をはじめとした支援者(医療関係者、福祉施設関係者、支援関係者、保育関係者、学校関係者、企業関係者など)の理解と協力が不可欠となるのである。
主に発達障害はDSM-5(DSM-5はアメリカ精神医学会が出版の精神疾患の診断・統計マニュアル)病名・用語翻訳ガイドラインにおいて下記カテゴリに分類される。
Ⅰ.Neurodevelopmental Disorders 神経発達症群・神経発達障害群
https://www.jspn.or.jp/uploads/uploads/files/activity/dsm-5_guideline.pdf
Autism Spectrum Disorder=自閉スペクトラム症(ASD) 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
Attention—Deficit/Hyperactivity Disorder=注意欠如・多動症(ADHD) 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
Specific Learning Disorder=SLD 限局性学習症/限局性学習障害
その他 運動障害群、知的能力障害群、コミュニケーション障害群、チック障害群、他の神経発達障害群などがある。
※PS:私は障害者を「障がい者」とは書かない。言葉尻や表現を変えたところで意味がないからである。そんな表現ひとつで我々「困難を持つ者」「傾向がある者」の症状が改善されるわけではないからだ。表現を変えるだけの対応より定型発達症候群であるこの社会が変わっていってほしいと切に願う。