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コラム:犯罪報道における「大人の発達障害」の偏見と法廷戦略について大人の発達障害者の私が考えてみる

悲しさのイメージ

以前から違和感を感じていた内容であるが、犯罪を犯したニュースや記事が出ると被疑者に対し「大人の発達障害者」「発達障害を伴った精神疾患者」「アスペルガー症候群」などの発達障害である記事を良く目にすことがあるだろう。
こういった報道を発達障害に対してなんの知識も持ち合わせていない定型発達者が観たり読んだりすると「発達障害をもつ人は犯罪者だ」というような誤った認識を与えかねない状況である。

そもそも自閉スペクトラム症(ASD)自閉スペクトラム症(旧アスペルガー症候群)や注意欠如・多動症(ADHD)注意欠如多動症などは全人口に対しての割合が決して多い方ではない。自閉スペクトラム症(ASD)に至ってはおおよそ1%前後、注意欠如・多動症(ADHD)に限っても5%~10%ほどらしい。100人中1人から5人。多く見積もっても10人いたとしてその発達障害者が犯罪に走りやすいという明確なデータはない。ここで発達障害研究の第一人者である岩波明氏の著書を参考に述べたいと思う。

・自閉スペクトラム症(ASD)=出現頻度は1000人に5人程度で男子に多いが、最近の研究では更に効率に1%弱の出現頻度があるという報告もみられる。
・注意欠如・多動症(ADHD)=自閉スペクトラム症(ASD)にくらべて注意欠如・多動症(ADHD)の有病率は高い。小児期においては人口の5%~10%程度に及ぶという報告もみられる。
・自閉スペクトラム症(ASD)、および注意欠如・多動症(ADHD)の犯罪率については、一般のひとより高率であるという報告と、ほぼ同等であるというものがあり、明確な結論は得られていない。

発達障害   岩波明著   2017年文藝春秋発行

ここで大きく2点の問題を見て行こう。


① 発達障害の偏見と誤診の多さ

特に少年事件における被告人の刑罰減免のために「発達障害」という病名が濫用されている実態について報告した。これによって発達障害とくにアスペルガー症候群(現自閉スペクトラム症(ASD))という用語は広く世の中に広まった。一方で発達障害に対する偏見を助長したことも否定できない。

・~中略~ 発達障害の概念が正しく認識されていなかったり、あるいは診断が過剰になっていたりと問題点も多い。

・多くの精神科医においてさえ、いまだに発達障害に対する知識や臨床経験が不足している状況においては、司法当局者に十分な理解を求める事は困難であろう。また裁判員裁判においては医学にも司法にも素人である裁判員にはさらに負担が大きく、判決が偏りのある内容となりかねない。

発達障害   岩波明著   2017年文藝春秋発行

上記、著書は2017年発行なので既に5年前の著書である為、現状は発達障害の認知度や診断内容は改善されてきているとは思うが、そもそも「発達障害」という言葉だけが独り歩きして、事件の報道などで悪い側面のみがクローズアップしているのである。また発達障害の認識自体、専門家でも間違えやすく複雑である事も問題だ。他の精神疾患、愛着障害や各種パーソナリティー障害その他多数の精神疾患と症状が非常に似通っていたり、自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)自体ですら症状が重なったりする部分もある為、発達障害を正確に診断できる専門家の医師自体が少なく、誤診につながりやすいというのも大きな問題点である。

② 法廷戦略の一環

発達障害の認知度が上がり、「生きづらいこと」や「変わっていること」また不登校やいじめといった問題にスポットライトが当たり、治療や支援が検討されるようになったのは好ましいことですが、同時に偏った報道や知識の普及により誤った理解や偏見も生まれるようになりました。また重大事件の犯人が、精神鑑定の結果によりアスペルガー症候群(現自閉スペクトラム症(ASD))などの発達障害と診断されたケースもいくつか報道されましたが、実際は弁護側の法廷戦略による場合が多く、発達障害について誤ったイメージを強調する結果になりました。

誤解だらけの発達障害   岩波明著   2019年株式会社宝島者

重大事件のニュースをみても「精神疾患を持っていた」「発達障害であった」「アスペルガー症候群であった」という報道をよく目にすると思う。たしかに発達障害を持つ人は、いじめにも遭いやすく周りから疎外されやすく、それに伴い孤独となり、周りに理解者がいない場合は注意が必要で思い詰めて犯罪に走る例もあるかとは思う。
しかし定型発達者と発達障害者の犯罪誘発率も確かなデータもなく、またその発達障害自体の診断も不確実性をもっている現代では現状のような一方的な報道を行う事は避けなければならない。

これは言ってみれば犯罪を犯した人物が定型発達者であった場合はその商品=ニュースはつまらないものとなり、新鮮味や目新しさがない。その後、被疑者は精神分析にかけられるが、上記のように専門家でも多い誤診をもとにした(誤診でない場合もあり)「発達障害判定」といういわば裁判における刑罰減免目的の法廷戦略と報道側のアラ捜しの為、キーワードだけが切り取られメディアで流されるのである。そうすることでニュースをみた人たちに「発達障害」=「犯罪者」という誤ったイメージが刷り込まれ、商品=記事や報道は売れるのである。

報道



私が思うに専門家でも判断が難しい「発達障害」を取り上げて報道するメディアの倫理や報道の在り方に問題があると思う。その為、たとえ被疑者が「発達障害」の恐れがあったとしても、診断で断定できないのであれば公表は控えるべきである(そもそも現代では精神疾患は解明の途中段階であり100%の断言はできないはずである)。もし「恐れがある」場合には上に述べた背景から「何らかの精神疾患の恐れがある」だけの報道で十分なのである。
これは発達障害に限らず統合失調症や他の精神疾患をお持ちの方へも同様の事がいえ、我々障害をもつ者に対してあたりまえの配慮であり、SDGsが叫ばれるマイノリティー社会を逆行しかねない非常にデリケートで重大な問題である。
その為、報道側の良識と常識ある配慮を切に願う。

皆さんはこの問題どう思われるであろうか?

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